【お!いしい けんぶんろく】 Vol.48
麺究者への道/⿂介を使った発酵⾷品について研究してみる
今回のブログは、これまでの単一テーマから外れて「魚介系の発酵食品」がテーマです。
発酵熟成にこだわって、いろいろとブログを書いてきましたが、ちょっと視点の違ったお話です。
魚介系の発酵食品と言えば、香川県では「いかなご醤油」が有名なんだそうですね。
恥ずかしながら、知りませんでした。
同じように魚醤と呼ばれるものは世界にもあり、多種多様な魚介系の発酵食品があることを知りました。
というか、気付きました。
身近なカツオ節や塩辛なども発酵食品だということを知って、今更ながらですが合点のいくところがあります。
素麺との関連性で言うと、間接的ではありますが出汁を取るカツオ節でしょうか。
においの強いものは得意ではありませんので敬遠しがちですし、これまでも接点は少なかったように思います。
小豆島は海に囲まれているので、海産物の加工品を目にすることがあります。
先日は、鰯の削り節「いりこぶし」というものに出会いました。
冬のギフト商品用として魚介系の商品を探していたときに「これはおいしくてクセになるよ!」とおすすめいただいたのが、「いりこぶし」でした。
ブログの後半でも詳しくご紹介いたしますが、結構、三代目好みの味で、試食用にいただいた物は、気がつけば一人でおやつ代わりに食べてしまっていました。
それぐらい(?)旨みがあって、鰯の風味が生きた加工食品でした。
ブログを書くために色々と調べているのですが、こういった新しいものに出会ったとき、前向きに抵抗感無く捉えられるのは、ブログを書いて少なからず予備知識があるおかげかも知れません。
大事な出会いを上手く活かすためにも、やはり知識というのは大切ですね。
今回のブログでは、世界の魚介系発酵食品から、日本の魚介系発酵食品の種類や歴史なども調べています。
なぜ、昔の人はこれを食べようと思ったんだろう?思いついたんだろう?というものあったりして、疑問がいろいろと出てくるのですが、人類が魚介系の発酵食品を口にするようになったそのターニングポイントを想像しながら色々と調べてみました。
ぜひ最後までお付き合いの程、よろしくお願いいたします。
製麺工場から徒歩30秒ほどからの風景です。
ダイナミックな景色が広がっています。
秋を感じますね。
【目次】
① 塩辛、魚醤、なれずしのルーツとは?
② 水産発酵食品の種類と特徴とは?
③ 水産発酵食品の製造方法について
④ 日本各地でつくられている水産発酵食品とは?
⑤ 世界で食されている水産発酵食品
⑥ 《美味しい小豆島の食財紹介》いりこぶし 編
① 塩辛、魚醤、なれずしのルーツとは?
水産発酵食品は考古学的遺物として残らないため、その起源を明らかにするのは難しいそうです。
一説には、東南アジアのメコン川流域や、それに接する中国の西南部で水田の稲作が始まったことから、水産物を塩漬けにした「塩辛」や、塩辛を液体状にした調味料である「魚醤」ができたと考えられています。
川や湖から水田に小魚が大量に入ってきて繁殖し、米の収穫時に水が抜かれると大量に漁獲されます。
それを保存するために塩漬けして発酵させたのが始まりで、さらに米を加えて乳酸発酵させたものが「なれずし」のルーツということだそうです。
腐敗を防ぐために食材を塩漬けにしていたところ、元の味とは異なった風味を持つことがあると分かり発酵の技術が発展したと考えられます。
古代中国では、魚に塩だけでなく麹も加えて発酵を促し魚醤をつくっており、肉を使った肉醤もつくられていましたが、漢の時代頃から大豆や穀物を原料とするようになり、これが味噌や醤油のルーツとされています。
現代でも東南アジアは魚醤の食文化、中国や朝鮮半島、日本の東アジアは大豆や穀物を原料とした穀醤の食文化が主流となっています。
日本へは弥生時代、水田稲作とともに、塩辛や魚醤、なれずしの原型が伝わったと考えられています。
694~710年の藤原京跡から「フナのししお」(フナを原料とした塩辛)と読める木簡が出土しているのが最初の文字記録だそうです。
平安時代にはシカやウサギを原料とする塩辛の記録も残されています。
かつて塩辛はおかずとして食べられたり、野菜と一緒に煮たり、汁を味付けに使ったりしており、魚醤は日本各地でつくられていたそうです。
なれずしは酸っぱい味がするので「酢し」と言われたのが「すし」の語源という説があります。
特定の漁期に集中して漁獲される魚を保存するため、かつては日本各地でつくられていました。
8世紀前半の「養老記」に「鮓」の文字が現れるのが最初の記録とのこと。
「すし」といえばなれずしのことだったそうです。
海産魚介類のほか、アユ、フナ、アメノウオ(サケ目サケ科に属する淡水魚。別名「ビワマス(琵琶鱒)」といい、琵琶湖にのみ生息する固有種)という淡水魚のなれずしが平安時代の記録に残っています。
室町時代には、ご飯も食べられる「生なれ」ずしが出現しました。
それまでなれずしは、酸っぱくてベトベトするご飯を取り去って食べていましたが、漬け込んで3~4日、遅くとも1~2カ月で消費するようになり、魚とご飯を一緒に食べるようになりました。
江戸時代中頃には、魚やご飯に酢を加える、発酵を経ないすしがつくられるようになり、握りずしや海苔巻きが登場しました。
これに伴い、伝統的なすしが「馴れずし」「熟れずし」と呼ばれるようになったそうです。
<参考サイト>
・農林水産省 水産発酵食品
https://traditional-foods.maff.go.jp/bunrui/suisanhakkoushokuhin
・石毛直道の発酵コラム 第3回「水産発酵食品」
https://wb.kirinholdings.com/about/activity/ferment/fishery/column_03.html
・魚醤とナレズシ
https://www.syokubunka.or.jp/publication/gallery/ishige/archives/fishsauce/chapter10.html
・アジアの発酵、日本の発酵#1
https://cuisine-kingdom.com/takashi-morieda/
② 水産発酵食品の種類と特徴とは?
水産発酵食品は、発酵に関わる微生物の種類や製造法などから、「塩蔵型発酵食品」「漬物型発酵食品」の2つに大きく分けることができます。
【塩蔵型発酵食品】
塩辛、魚醤、くさやが代表的。
「塩辛」は、食塩で魚介類の身や内臓の腐敗を防ぎながら、素材そのものが持つ消化酵素の作用により生臭さが消えて特有の風味が醸成される。
イカやウニの塩辛の他にも、カツオの内臓を使った「酒盗」、ナマコの内臓を使った「このわた」、アユの内臓を使った「うるか」、サケ・マス類の内臓を使った「めふん」などが各地で食されています。
「魚醤」は、魚介類を高濃度の食塩とともに1年~数年熟成させてつくる液体調味料。
かつて日本の広い地域でつくられていましたが、大豆醤油の広がりとともに減少しました。
現在では、秋田県の「しょっつる」、石川県の「いしる」、香川県の「いかなご醤油」が日本三大魚醤とされています。
伊豆七島の新島や大島などに伝わる干物「くさや」は、発酵した魚汁にムロアジやトビウオなどの魚を一晩漬け、乾燥させます。
汁の中の細菌により抗菌作用が付与され、また強烈なにおいが発生します。
※写真はPhoto ACより「イカの塩辛」
【漬物型発酵食品】
なれずし、ぬか漬けが代表的。
「なれずし」の中でも最も古い形をとどめているとされるのが、滋賀県の「ふなずし」。
強烈なにおいが特徴で、乳酸菌が多く含まれ、味はチーズに似たところがあります。
フナの他にウグイやハス、モロコ、アユなども使われます。
なれずしの材料としては、サバ、ブリ、サケ、ニシン、ハタハタなども使われます。
「ぬか漬け」は、塩蔵したイワシやサバ、ニシン、フグなどを、麹とともにぬかに漬け込み熟成させてつくります。
猛毒を持つフグの卵巣を微生物の発酵により数年かけて無害化した、石川県の「フグの子ぬか漬け」が有名です。
塩漬けした魚介類を発酵調味料に漬け込む「酢漬け」や「醤油漬け」があります。
酢漬けは、塩漬けした魚介類を食酢に漬け込むことにより、抗菌作用と香味を有します。
福井県の「こだいの笹漬け」、富山県の「ますずし」、岡山県の「ままかりの酢漬け」など。
※写真はPhoto ACより「鮒寿司」
醤油を使った魚介類の漬物としては、北海道と東北地方の「松前漬け」が代表的です。
カツオ節も発酵食品です。
カツオ節には「荒節」「枯節」「本枯節」という種類がありますが、そのうちカビ付けの工程がある「枯節」「本枯節」は、微生物の力を借りてつくられる食品であることから発酵食品の定義に該当します。
脂肪の分解力を持ち良い香りを引き出すカビを付けることにより、特有の美味しさを引き出し、より高品質なカツオ節をつくることができるそうです。
脂肪は品質低下の原因となるため、カビ付けをして分解することで、焙乾香や酸味がやわらぎ上品な風味とうま味が際立つとのこと。
カビを付けていない「荒節」と比べ、まろやかな出汁が取れます。
<参考サイト>
・かつお節は発酵食品!?魅力や活用術をご紹介!
https://www.yamaki.co.jp/katsuobushi-plus/news/202310_hakkou/
③ 水産発酵食品の製造方法について
いくつかの代表的な水産発酵食品について、製造方法を調べてみました。
【しょっつる】
原料としてはハタハタだけでなく、イワシなど様々な魚種でつくられます。
高塩分濃度で腐敗を抑えながら、魚介の持つ自己消化酵素により、タンパク質を徐々に分解してペプチドが生成され、さらにアミノ酸まで分解されます。
魚介のタンパク質の構成アミノ酸としては、うま味系のアスパラギン酸やグルタミン酸が多いため、うま味の強い液体ができます。
つくり方は、原料に対して約20~40%の食塩をまぶし、汁が浸出したら、脱水した魚を他の桶に移し、さらに塩をかけます。
浸出液を煮沸ろ過して魚を入れ重しをして、1年~数年漬け込むと魚は液化します。
これを煮沸後、数回ろ過して瓶詰めします。
※写真はAdobe Stockより「発泡スチロールに入ったハタハタ」
【ふなずし】
フナを丸ごと漬け込み、発酵中に産生する乳酸により骨がやわらかくなり、骨まで食べることができます。
増えた乳酸菌による整腸作用もあり、栄養価も高いそうです。
フナのうろこやえら、浮き袋、内臓を除去し、えら部と内臓部に塩を詰めて桶に詰め、重しをして2カ月以上漬けます。
フナを取り出して洗い、半日ほど日干ししたら、桶に冷ました白米とフナを交互に漬け込んで重しをします。
桶の水が下から上がってきたら、空気と遮断するため上に水を張り、時々水を交換しながら半年~2年ほど漬けます。
【カツオ節(枯節、本枯節)】
3枚におろしたカツオの身を煮て薪でいぶし、数日かけてじっくり乾燥させます。
こうしてできたものが「荒節」で、さらに天日で数日乾かし、カビ付け室に入れると、約2週間でカビが表面を覆います(1番カビ)。
表面の胞子を払い、再度天日干しをしてカビ付け室に戻し、4~6カ月ほどかけて2番カビ、3番カビ、4番カビと付けていき、最後に充分乾燥させます。
カビ付けを2回以上繰り返したものが「枯節」です。
さらに、
カビ付け=発酵により、酸味や渋味、雑味が削ぎ落とされてうま味が前に出てきます。
さらに水分が飛んでうま味が凝縮されるそうです。
付着した麹カビが水分を吸い取るため、他の微生物が繁殖できなくなるほど乾燥することで保存性が高まり、世界一硬い食品とも言われるほどの硬さになります。
※写真はPhoto ACより「たくさん陳列された鰹節」
<参考サイト>
・しょっつる
https://nrifs.fra.affrc.go.jp/kakou/souran/syottsuru/index.html
・ふなずし 滋賀県
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/funa_zushi_shiga.html
・鰹節(かつおぶし)|世界でもっとも硬い発酵食品?
https://www.hakko-biyori.com/dictionary-43
・世界一固い発酵食品「かつお節」の種類や作り方、栄養成分や美容・健康効果、使い方・食べ方、保存法をチェック
https://haccola.jp/2021_10_22_12088/
・「本枯鰹節」は手間暇かけた最上級のかつおぶし!おすすめの理由とは!
https://shop.ninben.co.jp/blog/katsuobushi/282/
④ 日本各地でつくられている水産発酵食品とは?
日本各地の水産発酵食品にはどのようなものがあるか、調べてみました。
<塩辛>
【切り込み】(北海道ほか)
北海道や東北地方でつくられる魚の塩辛。
ニシンやサケ、ヒラメ、エビなど様々な魚を材料につくられている。
昔は常温で保存できるよう、塩分高めでつくられていたとのこと。
【めふん】(北海道)
サケの腎臓を使った塩辛。
その名は、せわたを指す「メフヌ」「メフン」という北方アイヌ語からきているとのこと。
新巻鮭をつくるときに取り除く腎臓(せわた)の部分を塩漬けにし熟成させてつくる。
1年以上置くとトロトロになり原型をとどめなくなる。
※写真はPhoto ACより「アイヌ料理 めふん 北海道」
【このわた】(石川県ほか)
塩辛の一種で、カラスミ、ウニとならぶ三大珍味の1つとされる。
干しナマコをつくる過程で不要となる腸を海水で良く洗い、水を切って約2~3割の塩を合わせてよく混ぜる。
水分を取り一昼夜置き、密封して熟成させる。
※写真はPhoto ACより「このわた ナマコ 塩辛 石川県」
【黒づくり】(富山県)
イカの塩漬けに肝臓と墨袋をすり混ぜて発酵・熟成させ、独特の香味を加えた塩辛。
江戸時代、加賀藩主の参勤交代の際に献上品として納められたとも言われる。
【うるか】(岐阜県ほか)
アユの塩辛で、アユの獲れる各地でつくられている。
様々な種類があり、内臓に細切りにした身をまぜた「切り込みうるか」、内臓だけを使った「苦うるか(渋うるか、土うるかとも)」、内臓と身の全体がペースト状になった「身うるか」などがある。
【カツオの酒盗】(高知県ほか)
高知県や静岡県、鹿児島県などカツオ節の産地でつくられている。
カツオ節をつくる過程で不要となる内臓を水でよく洗って水気を切り、3割程度の塩に漬け込んで熟成させる。
土佐藩主の山内豊資がその美味しさに“酒を盗んででも飲みたくなる”という意味で名づけたと言われる。
※写真はPhoto ACより「かつおの酒盗とクリームチーズ」
【がん漬け】(佐賀県)
有明海の干潟にすむシオマネキという小さなカニの塩辛。
シオマネキを丸ごと臼やすり鉢でつき砕き、2割ほどの塩と唐辛子を入れ、かめや瓶に詰めて1カ月ほど発酵させる。
※写真はPhoto ACより「郷土料理 がんづけ」
【すくがらす】(沖縄県)
アイゴという魚の稚魚(沖縄方言で「スク」または「シュク」)を使った塩辛(沖縄方言で「カラス」)。
スクに3割ほどの塩を混ぜて重しを乗せ数日置いて、上がってきた水分にさらに塩を加えて沸騰させ、元のスクと一緒にかめや瓶に入れ、3カ月~1年かけて熟成させてつくる。
※写真はPhoto ACより「スクガラス」
<日本三大魚醤>
【しょっつる】(秋田県)
ハタハタやイワシを生のままかめなどに入れて塩漬けし、1~3年ほど発酵させ、自然にしみだしてきた水分を濾して使う。
その名は「塩汁」がなまったものと言われており、「塩魚汁」とも表記する。
秋田の代表的な郷土料理「しょっつる鍋」や「きりたんぽ鍋」の味付けに使われる。
【いしる】(石川県)
イワシやイカの内臓を塩漬けし、1年ほど熟成させてから煮沸し、上澄みを濾して使う。
能登の代表的な調味料で、地元ではイカの内臓を原料とする「いしる」、イワシを原料とする「よしる」と使い分けているとのこと。
「いしり」「よしり」とも呼ぶ。
塩分は強く個性的な香りながら、慣れると普通の醤油代わりに使えるほど地元では定着している。
【いかなご醤油】(香川県)
イカナゴ(スズキ科の小魚)を塩漬けし、表面を松葉で覆って3~4カ月発酵・熟成させ、汁を布で濾して使う。
醤油が多く出回るようになると衰退してほとんどつくられなくなったが、近年、讃岐の味わいとして復活を遂げた。
<調味料>
【ととのみそ】(大分県)
魚などの水産物と米麹でつくられる発酵調味料。
別府大学と津久見市観光協会などでつくるプロジェクトチームにより、新しく開発された。
<なれずし>
【ハタハタずし】(秋田県)
新鮮なハタハタを水にさらしてよく血抜きをし、1日酢漬けにして、刻んだニンジン、カブ、ユズなど彩り豊かな野菜と一緒に、重石をかけてご飯と麹で2~3週間ほど漬け込んでつくる。
お正月料理として昔から食されてきたとのこと。
【くさりずし】(千葉県)
九十九里浜に伝わる伝統的な保存食。
イワシやサバ、サンマなどでつくるなれずし。
風味付けにショウガと赤唐辛子を漬け込んでいるのが特徴。
【かぶらずし】(石川県)
野菜のカブにブリを挟み、麹で漬けこむすし。
江戸時代、豊漁祈願の儀式の際に出された料理とされ、現在でもお正月などに食される。
塩漬けしスライスしたカブに、塩漬けしたブリを挟み、1週間~1カ月ほど麹で漬け込む。
富山県では、ブリではなくサバやサケでかぶらずしがつくられる。
※写真はPhoto ACより「かぶら寿司 アップ」
※写真はPhoto ACより「北陸名産「サバの大根ずし」」
【ニシンずし】(福井県ほか)
福井県や、北海道、東北地方でつくられ、「ニシン漬け」「大根のニシン漬け」とも呼ばれる。
下処理したニシンを、薄切りのダイコン、ニンジン、ショウガなどの野菜と一緒にご飯で漬け込んでつくる。
焼いて食べてもおいしいとのこと。
【サバのなれずし】(福井県など)
へしこ(魚のぬか漬け)を使ったなれずしで、正月などハレの日の料理。
ぬか漬けの香ばしさと、なれずしの酸味とうま味が合わさった風味で“海のチーズ”とも呼ばれる。
※写真はPhoto ACより「なれずし 早なれずし サバ 和歌山県」
【アユのなれずし】(岐阜県ほか)
岐阜県、滋賀県、福井県、和歌山県、栃木県など、アユの獲れる日本各地で保存食としてつくられてきた。
地域によっては「アユのくされずし」とも呼ばれている。
地域によっては大根を一緒に漬けることも。
※写真はPhoto ACより「鮎のなれずし 岐阜県」
【ふなずし】(滋賀県)
昔ながらの製法でつくる、日本のなれずしの代表格。
琵琶湖周辺でとれたフナを数カ月塩漬けにしてから、1~3年ご飯で漬け込む。
お正月やおもてなしの料理として食されたり、神社で神餞として供えられたりしている。
【サンマのなれずし】(和歌山県)
新鮮なサンマを開いて、数カ月~1年塩漬けにし、塩抜きをしてご飯と合わせ重石をかけて桶に漬け込み、1カ月ほど熟成させてつくる。
30年以上熟成させた「本なれずし」もあるとのこと。
最近では、酢を使い数日間でつくるものもある。
※写真はPhoto ACより「和歌山のなれずし」
<その他>
【山漬け】(北海道)
鮭のえらと内臓を取り除いて塩をもみ込み、箱に仕込んで何段も重ねて重石を乗せ、数日~10日ほど熟成させ、塩を洗い乾燥させる。
アイヌの人々がつくっていた鮭の干物と、江戸時代に和人が持ち込んだ塩の文化が合体してできたとされている。
【あざら】(宮城県)
気仙沼市周辺の漁師の料理。
メヌケという深海魚のアラと、長期間漬け込んで発酵が進み酸味が増した白菜の古漬けを、酒粕で煮込む。
【くさや】(東京都)
400年ほど前、伊豆七島の新島で生まれたとされ、「くさいや」が語源と言われている。
マアジやムロアジなどの腹を裂いて内臓を取り水洗いしてから、長年受け継がれているつけ汁に2時間ほど漬けてから天日干し、を繰り返してつくる。
※写真はPhoto ACより「くさや」
【潮かつお】(静岡県)
西伊豆町の田子地区に伝わり、カツオ節の原型とも言われる。
カツオの内臓を取ってよく洗い3週間ほど塩漬けにして、塩を洗い、3週間~1カ月ほど屋内で陰干ししてつくる。
新年を祝う縁起物として、正月に神棚に供えられる。
【フグの卵巣ぬか漬け】(石川県)
白山市美川地区周辺に伝わる珍味。
猛毒をもつフグの卵巣を1年ほど塩漬けにして、さらに1年以上ぬか漬けにする。
江戸時代にはすでにつくられていたと伝わるが、無毒化のメカニズムは解明されていないとのこと。
【へしこ】(福井県ほか)
福井県、石川県、富山県などでつくられてきた、魚のぬか漬け。
サバやイワシ、ニシン、フグなどの魚をよく洗って水気を切り塩をまぶし、下漬けしたものを塩と米のとぎ汁で練ってつくったぬか床に漬け込んでつくる。
※写真はPhoto ACより「発酵食品 魚 鯖のへしこ」
【ままかりの酢漬け】(岡山県)
ママカリという小さな青魚の頭と内臓を取って塩でしめ、塩を洗って数日間酢漬けにしてつくる。
そのままで食したり、酢飯と握って寿司として食したりする。
※写真はPhoto ACより「ままかり寿司 ~岡山の郷土料理~」
【いずみや】(愛媛県)
おからを酢飯に見立て、酢でしめた青魚を乗せた握り寿司。
コノシロやサヨリなどが用いられる。
【辛子明太子】(福岡県)
スケトウダラの卵巣(卵を含む)を塩漬けにして、醤油や酒、唐辛子を使った調味液に漬け込んでつくる。
※写真はPhoto ACより「博多名産 辛子明太子」
【松浦漬け】(佐賀県)
クジラの脂を搾った後の上あごの軟骨(かぶら骨)の使い道として、江戸時代から昭和30年代まで捕鯨地として栄えた呼子町で考案されたもの。
かぶら骨を酒粕に漬け込んでつくる。
<参考サイト>
・発酵食品名鑑
https://wb.kirinholdings.com/about/activity/ferment/fishery/
・生で食べきれない魚介類を有効活用した”海の発酵”【前編】《ニッポン全国発酵食品名鑑》
https://discoverjapan-web.com/article/66048
・生で食べきれない魚介類を有効活用した”海の発酵”【後編】《ニッポン全国発酵食品名鑑》
https://discoverjapan-web.com/article/66566
・大豆ではなく「魚で作った」味噌とは? 実は各地に存在する発酵魚介食材
⑤ 世界で食されている水産発酵食品
東南アジアを中心に広く使われている魚醤は、古代ローマ時代のヨーロッパでも日常的に使われていたそうです。
魚醤のような調味料の他にも、世界各地で多様な水産発酵食品が食されています。
主なものを調べてみました。
<調味料>
【ガルム】(古代ヨーロッパ)
古代ローマ時代、ヨーロッパではアンチョビの内臓を原料とする魚醤「ガルム」が日常的に使われたと伝えられる。
ウスターソースも、もとは小魚を発酵させた魚醤が起源。
最近は現代人の味覚に合わせ、小魚や小エビを塩漬けにした新しいガルムがつくられ、イタリアの味として人気を集めているとのこと。
【コラトゥーラ・ディ・アリーチ】(イタリア)
南イタリアのアマルフィ海岸で手づくりされるアンチョビの魚醤。
塩漬けにしたカタクチイワシを4~5カ月間熟成させ、壺の底にたまった液体と熟成したイワシを漉してつくられる。
【ナンプラー(ナムプラー)】(タイ)
タイ料理に欠かせない魚醤。
塩漬けしたカタクチイワシを発酵させて生じる液体で、発酵にかかる期間は1年ほど。
つくり手によって味わいに違いがあるのも特徴。
【カピ】(タイ)
小エビを塩漬けにして発酵させペースト状にした調味料。
グルタミン酸含有量が多く、加熱すると香りが広がり、凝縮したエビのうま味を料理に加える。
カレーペーストの原料としても使われる。
【ニョクマム(ヌクマム)】(ベトナム)
ベトナム南部のフーコック島などでつくられる魚醤。
木樽にカタクチイワシなどの小魚と塩を漬け込み、4カ月~1年ほど発酵・熟成させてつくる。
アミノ酸含有量が豊富で、うま味がたっぷり感じられる。
ナンプラーに似ているが、ナンプラーより魚に対する塩の割合が少なく発酵期間が短い。
【ユイルウ(魚露)】(中国)
カタクチイワシやムロアジを塩漬けし、熟成・発酵させてつくる魚醤。
【サーチャージャン】(台湾)
干しエビやカレイ、ニンニク、トウガラシが原料の、魚介のうま味が凝縮した台湾版バーベキューソース。
台湾では牛肉の炒め物や火鍋、水餃子のつけだれ、魚介料理のコク出しなどに使われる。
【エクジョ】(韓国)
イワシを塩漬けし熟成・発酵させてつくる魚醤。
生臭さや独特な風味は抑えらえており食べやすい。
キムチの隠し味としても使われる。
<魚の加工食品>
【シュールストレミング】(スウェーデン)
その強烈な匂いから「世界一臭い食べ物」と呼ばれる。
ニシンの塩漬けを缶に入れて発酵させた保存食で、缶の中でずっと発酵を続けるため、常温保存できない。
パンや茹でジャガイモと一緒に食べるのが一般的。
※写真はPhoto ACより「シュールストレミング」
【アンチョビ】(イタリア)
イタリア料理でおなじみ。
内臓を取り除いたカタクチイワシを塩漬けにして発酵させ、オリーブオイルを加える。
【スモークアンチョビ】(スペイン)
スペイン・バレンシア地方でつくられる。
新鮮なヒシコイワシの腹ワタを取り除き2日間塩漬けにした後、ブナの木で軽くスモークしてオイル漬けにする。
塩分控えめで、燻製の香りが料理を引き立てる。
【ハカール】(アイスランド)
サメを発酵させてから水分を飛ばし、干物のようにした食品。
サメの身にはアンモニアが多く含まれており、口に含むと強烈な刺激臭が鼻に抜けていくと言われる。
味としてはチーズのような風味。
伝統的に製造されており、スーパーなどでも普通に売られているとのこと。
【ピクルド・グラミーフィッシュ】(タイ)
「プラー・ラー」と言われる、タイ版の「へしこ」。
グラミーフィッシュという魚を塩や米ぬかに漬けて発酵させたもの。
独特の香りが特徴で、青パパイヤのサラダなどに使う。
【ホンオフェ】(韓国)
切り身にしたエイを壺の中で数日間発酵させたもので、シュールストレミングに次ぎ、世界で2番目に臭い食べ物と言われる。
エイの身にはアンモニアが多く含まれており、食べると強烈な刺激臭が喉から鼻に抜ける。
またアンモニアはアルカリ性のため、はやく飲み込まないと口の中がただれてしまうという危険性もある。
韓国の一部地域では冠婚葬祭に欠かせない高級料理として親しまれている。
【ジョッカル】(韓国)
オキアミの塩辛で、韓国料理に欠かせないもの。キムチを漬ける時に使用し、乳酸発酵を促し、うま味を増進させる。その他、チゲ鍋や炒め物の隠し味にも使われる。
<参考サイト>
・日本が誇る伝統の発酵食品「魚醤」の豆知識
https://www.maruichi.com/delicious/file/post-24.php
・日本で買って使える発酵食品図鑑
https://cuisine-kingdom.com/fermentedseasoning/
・【発酵文化から学ぶvol.2】こんなにあった!知られざる世界の発酵食
https://www.has710.com/blog/2023/03/24/column_hakko-vol2-world/#co-index-1
・世界の料理は微生物であふれている!|世界の発酵食品10選
https://micsmagazine.com/basic/2438/post
・ベトナム料理に欠かせない調味料「ヌクマム」とは?
https://tripping.jp/asean/vietnam/33959
⑥ 《美味しい小豆島の食財紹介》いりこぶし 編
おやつに、おかずに、トッピングに鰯のうま味が詰まった削り節はいかがでしょうか?
導入部分でも触れましたが、冬のギフト品、小豆島のおいしい逸品として「池田漁業協同組合」様へお邪魔して、小豆島の海産物についていろいろとお話を伺ってきました。
「池田漁業協同組合」様には、常日頃からお世話になっていて、催事やイベントなどでも一緒に参加させていただいたりしています。
今回も「ぜひ小豆島のおいしいものを、石井製麺所からご紹介させていただきたい」とお願いしたときにご紹介いただいたのが「いりこぶし」でした。
いりこってご存じですか?
煮干しと言った方がご理解いただけるでしょうか。
瀬戸内海、特に香川県では初夏の風物詩として“いりこ漁”がおこなわれています。
「いりこ」=「イワシ(カタクチイワシ)」を茹でて干したものです。
小豆島から少し離れた香川県の「伊吹島(いぶきじま)」というところでは、いりこがつくりやすいように島を囲むように加工場があります。
当然、島の特産品がいりこです。
※写真はイメージ
今回ご紹介する「いりこぶし」は、瀬戸内から九州五島列島にかけて水揚げされた鰯を、大正時代から受け継がれた技法で一尾一尾手間暇かけて骨ごと削り濃厚な味を凝縮した削り節です。
脂分の少ない良質の鰯煮干しを使用し昔ながらの手法で丁寧に削られ、とても贅沢な削り節に仕上げています。
旨さたっぷり、栄養もたっぷりで、お料理のバリエーションも広がる逸品です。
おひたしや豆腐をはじめ、お好み焼きなどに、そのままふりかけるのも良し、簡単に上品で香り高い「だし」もとれるのでおすすめです。
もちろん、素麺や釜玉うどんなどのトッピングにもぴったりです。
試食用に初めていただいたとき、「濃い!」が第一印象でした。
私が知る一般的なかつお節と比較して、そのままつまんで、おやつ代わりになる削り節で、試食用の一袋は、ほとんど私がおやつとしてつまんでしまいました。
かつお節より厚めに削られた印象で、鰯の味(魚の旨み)が濃く感じられました。
卵かけご飯にかける(混ぜる)と、醤油との相性がよく、おかわりしてしまうくらいおいしかったです。
この機会にぜひお召し上がりください。
《石井製麺所公式ホームページ》 https://141seimen.com/business/
《いりこぶし<池田漁業協同組合>》 https://141seimen.thebase.in/items/94882496
『お!いしい けんぶんろく』について
本ブログでは、色々な産地を調べたり、食べ方を探求したり、将来的には実際に産地に行って交流を深めたり…そんなことができれば良いなと考えています。まずは勉強からと言うことで、小豆島もそのひとつですが、日本の素麺や麺類について調べながら、様々な素麺の情報を発信できれば良いなと考えています。もし、間違いなどあれば、ご指摘ください。たくさんの方の“素麺のデータベース”になればと考えています。
色々な情報を紐解きながら…なので、間違いや勘違い、伝承だと色々な解釈があったりすると思いますので、優しい気持ちで見守っていただき、一緒に学べる場にできれば幸いです。