【お!いしい けんぶんろく】 Vol.2
手間を惜しまない伝統の製法・手延べ素麺
素麺の作り方は大きく2つに分けられます。生地を細くのばしていく「手延べ製法」と、機械で生地を薄くのばし、細く切る「機械製麺」。
製法の違いが、食感や麺のコシ、のど越しを大きく左右します。ここでは小豆島で続く伝統的な手延べ製法での素麺作りについて、ご紹介します。
三代目:小豆島には大小約80軒の製麺所があると言われています。その各製麺所によって微妙に製法やこだわり、使用する機械なども異なりますので、ここでは石井製麺所をベースにお話しさせていただきます。
【目次】
① 手延べと機械、製法の違いによる味わいの違いとは
② 丹精込めて作られる手延べ素麺
③ 《産地紹介》奈良県・三輪素麺
④ 《美味しい素麺》うどん 編
① 手延べと機械、製法の違いによる味わいの違いとは
農林水産省が制定するJAS法によると、手延べ干し麺(手延べ素麺を含む)の製造法の定義は、「小麦粉に食塩、水等を加えて練り合わせた後、食用植物油又はでん粉を塗付してよりをかけながら順次引き延ばしてめんとし、それを乾燥したものであって、小引(こび)き工程又は門干(かどぼ)し工程においてめん線を引き延ばす行為を手作業によって行い、かつ、これらの工程において、一定期間以上の熟成が行われたもの」とされています。
機械製麺と大きく違う点は、①仕上げの工程が手作業であること、②生地を引きのばして麺にする各工程で熟成が繰り返し行われること、③植物油が用いられていることです。
小麦粉を練ってつくった生地を、のばして重ねて、のばして重ねて…を繰り返すことで、小麦粉に含まれるグルテンが一定方向に、まるで何層にも重なった地層のように組織されます。これをよりをかけながら細くのばすことで断面が丸くなり、なめらかな食感とコシ、つるつるとした喉越しが特徴の手延べ素麺になります。
時間が経っても伸びにくいのも特徴のひとつです。元々はすべての工程が文字通り人の手で行なわれていましたが、最近は一部の工程で機械化が進み、量産化が図られています。
一方、機械で生地を薄くのばし、細く切って乾燥させる「機械製法」で作られた素麺は、断面が四角く、大量生産に向き比較的安価でできますが、手延べ麺のようなツルツル感はありません。
<参考サイト>
・日本農林規格の改正について「手延べ干しめん」
https://www.maff.go.jp/j/jas/kaigi/pdf/140221_sokai_f.pdf
・植物油INFORMATION
https://www.oil.or.jp/info/70/
・肝臓公司
https://kanzo.jp/archives/24253
※写真はイメージです。
② 丹精込めて作られる手延べ素麺
日本三大素麺のひとつ・小豆島素麺(石井製麺所)を例にとり、手延べ製法の工程をご紹介します。
約400年前から続く伝統の製法で、小豆島特産の純正ごま油を塗りながら練った生地を、木箸を使って極細の糸状になるまで丁寧に引きのばし、天日でじっくり乾燥させて作ります。
油を塗るのは、麺の表面の乾燥や麺同士の付着を防ぐため。
ごま油を使うことで独特の風味が生まれ、他の産地で使用している綿実油に比べて酸化しにくいため麺が劣化しにくい特徴があります。
また室内乾燥が主流になる中、小豆島の自然環境の良さを活かして天日干しと室内干しを組み合わせることにより、麺がより白くなり、旨みも増すと言われます。
《工程1》おで(小麦粉をこねる)
その日の天候や温度・湿度に最適な小麦粉と食塩水の配合量で、30分ほど丁寧に練り合わせ、グルテンがしっかり形成された麺生地を作ります。
《工程2》いたぎ(板状に切り出し、圧延と複合を繰り返す)
麺圧機で生地をまとめ、板状に切り出し、圧力をかけて帯のようにのばします(圧延)。 “採桶(さいとう)”と呼ばれる金属製の桶に巻き取り、生地を重ね合わせ、再び圧力をかけながらのばします(複合)。これを何度か繰り返し、きめの細かいグルテン組織を作ります。
《工程3》油がえし(表面に油を塗る)
帯状になった生地を半分に折るようにして丸め、麺生地同士がくっつかないように、ごま油を塗りながら巻いていきます。油がえし後は、しばらく寝かせて生地を熟成させます。
《工程4》より(麺を少しずつ細める)
ごま油を塗った生地を熟成させた後、よりをかけながらだんだんと細めていきます。この時も採桶に巻きながらごま油を塗ります。熟成の時間を挟み、中より(なかより)、小より(こより)の二段階の工程を経て細くすることで、麺のコシが生まれます。
《工程5》かけば(2本の箸に、8の字にかける)
さらによりをかけながら細くのばした麺紐を2本の箸に8の字状に巻き付けます。
“寝櫃(ねびつ)”と呼ばれる熟成用の箱に入れてさらに熟成させます。
《工程6》こびき(のばしに備えて、少しのばす)
寝櫃で熟成させた生地を50cmほどの長さにのばします。
次の工程で大きくのばすための下準備です。
《工程7》のばし
生地を、機械を使って生地を背丈ほどの長さにのばしながら、8の字にかかった生地の間に箸を通し、生地同士のひっつきを分けていきます。
8の字にかけたことで、箸を通すだけで隣り合う生地を離すことができます。
《工程8》はしわけ
のばした麺を“はた”と呼ばれる干し台につけていきます。
その日の湿度に合わせて、手作業で箸を入れ、のばし上げた麺線のひっつきを一本一本丁寧に箸で分けていきます。
《工程9》乾燥
小豆島手延べ素麺の特徴のひとつ、天日干しを行います。
天日干しで表面をさっと乾かし余分な水分が取れたのを見計らって、室内乾燥に切り替えじっくり時間をかけて乾かします。
こうすることによって、麺の一本一本がよく締まり、舌触りがつるっとした、見た目もなめらかで美しい素麺になります。
《工程10》裁断
乾燥の終わった麺を切り台に並べ19cmの長さで切り揃えます。
併せて目視にて不良麺を取り除きます。
《工程11》てび(帯で束ねる)
19cmに切り揃えた麺を、一束一束、帯で束ねていきます。
一束は50gと決まっており、重さと不良麺の有無を確認しながら、丁寧に帯を巻いて完成品となります。
三代目:私の製麺所は、家族三人で製造しているので、誰が欠けても成り立ちません。その三人が阿吽の呼吸で製造を行なっています。当初、私が帰郷した際に製造現場に立ち会いましたが、もちろん最初は何から手伝えば良いのかわからず、右往左往していました。
しかしながら、今では箸わけをできるくらいに(これは高さがあって、大変なのと意外に重労働なんです)なり、すんなりと製造に加わっています。
「おで」と言われる練りの工程は経験値の必要なもので、
もちろんこういった学びは自社(実家)でしかできず(中には他社に修業に行くこともありますが)、製造の研修(修業)をできる場所が今の小豆島にはありません。
後進育成のためにもそういった学びや集まれる場所作りも今後の産地継続、技能伝承のためには大切なことかなと感じています。
<参考サイト>
・うどん県旅ネット
https://www.my-kagawa.jp/shodoshima/feature/shodoshima/beauty4
・QLIP
https://qlip-trip.com/jp/articles/79
③ 《産地紹介》奈良県・三輪素麺
素麺の三大産地のひとつであり、素麺発祥の地とされているのが三輪です。
827年、三輪山の大神神社で、神主であった大神朝臣狭井久佐(おおみわのあそんさいくさ)の次男・穀主(たねぬし)が神の啓示を賜り、三輪の地に適した小麦の栽培を行い、小麦と三輪山の清流で素麺作りを始めたと言われています。
後の江戸時代には、お伊勢参りの途中で多くの人が奈良を訪れ、旅籠で三輪名物として供される素麺を食べたことから、その評判が全国へと広まっていきました。
良質の小麦粉と塩、三輪の清水、三輪山から盆地に吹き下ろす北風「三輪おろし」などの気候風土が、素麺作りに適しています。三輪の手延べ製法が播州、小豆島、島原へと伝わったとされています。
<参考サイト>
・九州お取り寄せ本舗
https://blog.otoriyose.site/kyusyustroll/1805/
・大神神社HP
https://oomiwa.or.jp/jinja/kamigatari/
・奈良県観光公式サイト
http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/page/page_32.html
・三輪素麺振興会公式HP
④ 《美味しい素麺》うどん 編
うどん?!って思いますよね。
小豆島手延べそうめんにも、うどんはあります。手延べうどんです。
そうめんの太さは、乾めん類品質表示基準(農林水産省告示488号)において直径1.3㎜未満と定められています。乾めん類品質表示基準はJAS法に基づく品質表示基準のひとつであり、この違反に対しては19条の14で定められた指示又は命令がなされ、その旨の公表がなされます(第19条の14の2)。ちなみに、その他にも以下のように厳密に規定されているんですよ。
破れば法律違反です(汗)。
第1号 名称
加工食品品質表示基準第4条第1項第1号本文の規定にかかわらず、次に定めるところにより記載すること。
ア 手延べ干しそば以外の干しそばにあっては「干しそば」又は「そば」と記載すること。
イ 手延べ干しめん以外の干しめんにあっては「干しめん」と記載すること。ただし、長径を1.7㎜以上に成形したものにあっては「干しうどん」又は「うどん」と、長径を1.3㎜以上1.7㎜未満に成形したものにあっては「干しひやむぎ」、「ひやむぎ」又は「細うどん」と、長径を1.3㎜未満に成形したものにあっては「干しそうめん」又は「そうめん」と、幅を4.5㎜以上とし、かつ、厚さを2.0㎜未満の帯状に成形したものにあっては「干しひらめん」、「ひらめん」、「きしめん」又は「ひもかわ」と、かんすいを使用したものにあっては「干し中華めん」又は「中華めん」と記載することができる。
ウ 手延べ干しそばにあっては「手延べ干しそば」又は「手延べそば」と記載すること。
エ 手延べ干しめんにあっては「手延べ干しめん」と記載すること。ただし、長径が1.7㎜以上に成形したものにあっては「手延べうどん」と、長径が1.7㎜未満に成形したものにあっては「手延べひやむぎ」又は「手延べそうめん」と、幅を4.5㎜以上とし、かつ、厚さを2.0㎜未満の帯状に成形したものにあっては「手延べひらめん」、「手延べきしめん」又は「手延べひもかわ」と、かんすいを使用したものにあっては「手延べ干し中華めん」又は「手延べ中華めん」と記載することができる。 ※「長径」とは、楕円の最も長い部分の半径
で、うどんですが、「長径を1.7㎜以上に整形したものはうどん」と規定されています。
製法は手延べでも、太さがあると『うどん』にしなければいけないんですね。
手延べうどんの特性は、しっかりと乾燥させているので、湯で伸びしにくく、長時間煮込んでも煮崩れを起こしません。ただ、茹で時間が生うどんなどに比べて長いので、ささっと作って食べることが難しいです。
その分、例えば、旨味の溶け出したスープなどでじっくり煮込めば、旨味たっぷりの美味しい煮込みうどんになります。ですから、鍋パーティの後の〆の一品や煮込みうどんとして召し上がっていただけると、手延べうどんのモチモチとした食感とツルンとした喉ごしが味わえ、たっぷりと出汁の旨味を吸った極上の食事になります。
鍋の〆の一品で召し上がる際は、事前に茹でておいて冷蔵庫で保存しておけば、食べる際にはすぐに調理いただけます。ぜひ、これからの寒い時期に「手延べうどん」を!
三代目:次回のブログは12/1ごろ、アップしたいと思います。
『お!いしい けんぶんろく』について
本ブログでは、色々な産地を調べたり、食べ方を探求したり、将来的には実際に産地に行って交流を深めたり…そんなことができれば良いなと考えています。まずは勉強からと言うことで、小豆島もそのひとつですが、日本の素麺や麺類について調べながら、様々な素麺の情報を発信できれば良いなと考えています。もし、間違いなどあれば、ご指摘ください。たくさんの方の“素麺のデータベース”になればと考えています。
色々な情報を紐解きながら…なので、間違いや勘違い、伝承だと色々な解釈があったりすると思いますので、優しい気持ちで見守っていただき、一緒に学べる場にできれば幸いです。