【お!いしい けんぶんろく】 Vol.36
麺究者への道/パンについて研究してみる
今回のブログでは、「発酵」「熟成」を語るなら触れておきたい「パン」について調べてみました。
実は、大手パン屋さんで働いた経験があります(笑)。
その時はアルバイトでしたが、今から思うと、家業を継ぐにあたってとても良い経験であり、知識を得る場であったと思います。
単に、パン好きだったのもありますが(笑)。
今、新製品開発にあたって「発酵」「熟成」について、色々と調べていますが、パンについては素麵の製造に近いところもあり、自分の中では参考になる点も非常に多いと感じています。
また逆に、パンに求められて素麵に求められていないものや、パンにはあって素麵に無いものなど、新商品だけでなく、サービスや製造工程でも学びが多く、こうしてブログを書く際にも改めて勉強になると感じています。
パンの歴史を掘り下げてみると、人間の歴史や文化の進化にパンも大きく関わっていたことに気付かされます。
主食とそうでないものの違いも大いにあるでしょうか。
では、なぜ素麵は主食にならなかったのか。
パンも元々は供物であったり、貴族や富裕層のものであったりしました。
素麵も日本に入ってきたときには、貴族のものであり、供物としても珍重されてきました。
それがいつしか、日常食とされるパンと非日常食(と思っていますが)の素麵では差がつき、食卓に上る回数も大きく異なってきます。
もちろん、手軽に食べることができるパンと、ある程度準備が必要な素麵では、自ずと差が出てしまいますが、果たしてそれだけでしょうか。。。
私は、素麵を日常食として取り入れていただくためには、どのような事が必要か、素麵業界のタブーを越えて考えています。
そういう意味では、近くて遠い「パン」は、私の目標であり、参考であり、ライバルでもあります。
今回のブログでは、知っているようで知らなかったパンのあれこれや、今さら聞けないパンの事情について調べてみました。
パンを専門とされる方には物足りないかも知れませんが、もし、追加情報などあればぜひご教授ください。
今回も最後までお付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします。
【目次】
① パンの起源はメソポタミア。そして世界へ
② 鉄砲とともに日本に伝えられたパン
③ パン生地の主な製法とは
④ パンの美味しさは発酵により決まる
⑤ 天然酵母とイーストは何が違う?
⑥ 噛み応えの違いで分けられるハード系、ソフト系
⑦ 小麦とアレルゲンフリーを考える
⑧ グルテンを含まない「米粉パン」とは?
⑨ パンに似ている日本の郷土料理
⑩ 《美味しい素麺》手延べ乾平うどん 編
① パンの起源はメソポタミア。そして世界へ
今から8000年~6000年ほど前の古代メソポタミア(現在のイラク、シリア、トルコのあたり)では、小麦などの穀物を粉にして水を加え薄く伸ばして焼く、平たい無発酵パンを食べており、これがパンの原型と言われています。
この平焼きパンの食文化は中近東やインドの文化圏に広まり、今でもピタパンやトルティーヤ、チャパティなどが食されています。
その後、古代エジプトへ小麦栽培とパンづくりが伝わりました。今から約5000年前、パンを焼こうと小麦粉に水を加えて生地をつくり置いておいたところ、空気中の酵母がついて、自然に発酵。
それを焼いてみるといつもよりふっくらして美味しいパンができた、という偶然から発酵パンが生まれたと考えられています。
古代エジプトではビール発酵種を小麦粉に混ぜて「ガレット」と呼ばれる平焼きパンを焼くようになっり、これが世界最古のパンだと言われています。
最初は砂漠の中で強い太陽熱を利用して焼いていましたが、次第に色々な窯を工夫していったようです。
パンは、古代エジプトの人にとって日常の主食であると同時に神に捧げる供物であり、役人の給料でもあったそうです。
当時大麦の粥が主食だった古代ギリシャの歴史家ヘロドトスは、「エジプト人はパン食い人だ」と驚いたとのこと。ラムセス3世の墳墓にはパン職人たちの壁画が描かれ、大量のパンをつくっていた当時の様子が示されているそうです。
エジプト人はパンの製法を国外に伝えることを禁じていましたが、エジプトに捕虜として捕らわれていたヘブライ人により国外に伝えられたと言われています。
ヘブライ人は窯に工夫を加え、半連続的に大量にパンを製造する方法を開発しました。
これが直焼きパンの製法の始まりとのことです。
古代ギリシャでは今から2500年ほど前にエジプトからパンづくりが伝わりました。
特産のオリーブオイルを使った揚げパンや菓子などがつくられたり、酵母が含まれたブドウ液をパンづくりに用いるようになったりしました。
原料も多様化し、大麦、エン麦、粟、レンズ豆、さらにハチミツやクリーム、卵、ドライフルーツなどを使って主食だけでなく嗜好性の高いパンもつくられたそうです。
また、細かい粉をひくことができる「ひき臼」や、オーブンの原型に近い「パン焼き窯」が発明されるなど、製パン技術も大きく進歩したそうです。
※写真はPhotoACより「ポンペイ遺跡のパン屋」
古代ローマ時代、ローマ軍がギリシャへ侵攻すると、奴隷として捕らえられたギリシャのパン職人により、製粉や製パンの技術がローマへ広まりました。
小麦の皮を取り除いて白く口当たりのよいパンをつくるため、馬のしっぽの毛を使った「ふるい」が発明されたそうです。
ローマ市内には国営のパン焼き窯が設置されて大量生産がはじまり、パンの配給も行われたとのことです。
ローマでは貴族や教会が製パン所を支配し、庶民がパンをつくることを禁じました。
全盛期のローマの街には254軒の製パン所があったそうです。
パン職人は結束して組合を組織し、政治的にも地位が高く、様々な特権をもっていました。
ローマ帝国が各地を征服していくのに伴い、パン食文化もヨーロッパ各国に伝えられていきました。
ヨーロッパではそれまで主に大麦を生産していましたが、より美味しい小麦の生産に変化していったそうです。
また小麦の育ちにくいドイツやロシアなど北欧では、ライ麦粉のパンや、ライ麦粉に小麦粉を混ぜたパンをつくるようになったそうです。
ローマ帝国滅亡後、パンづくりの技術はほとんど進歩が見られませんでした。
当時パンづくりが許されていたのは、一部のパン屋と教会や修道院、貴族に限られていました。
14~16世紀、イタリアを中心にルネサンスが起こると、ヨーロッパでは国ごとに特徴のあるパン文化が花開き、国家規模でナショナルブレッドという考え方が生まれてきました。
フランスパン、イギリスパンといった言葉は、「我が国のパン」という意識が強いことから生まれたものです。
またイギリスから新大陸に渡ったパンは、機械化の恩恵を受けて生産の合理化や量産化が進み、アングロアメリカ系と呼ばれるリッチな配合のパンとなっていきました。
ちなみに「パン」と「ブレッド」は同じものです。
「パン」は日本語をはじめ、台湾語、韓国語、ポルトガル語、フランス語、スペイン語などで用いられる呼称で、語源はポルトガル語で「パン」を意味する“pão”だそうです。
「ブレッド」は、英語、デンマーク語、ノルウェー語などで用いられ、長方形の箱型で焼いた「食パン」を指すことが多いとのこと。
語源はゲルマン語で「醸造」を意味する “Brauen”と考えられています。
ちなみに英語圏で「パン」というと、フライパンの短縮形である場合が多く、「パンケーキ」はフライパンで焼くケーキに由来する言葉だそうです。
<参考サイト>
・パンの歴史館
https://www.yamazakipan.co.jp/stylebook/pan-history/index.html
・パンの歴史
https://www.guruman.co.jp/knowledge/knowledge-3523
・パンの歴史は、人類の食へのこだわりの歴史
https://www.pascoshop.com/Page/LP/column/09.html
・おしえて!小麦ごはん
https://delsole-komugigohan.jp/komugigohan/bread/genealogy.html
・パンの歴史
https://www.panstory.jp/history/history.html
・パンは文化だから伝統行事で使われている
・「パン」と「ブレッド」「トースト」の違いは?
https://lowch.com/archives/15623
② 鉄砲とともに日本に伝えられたパン
本格的な西洋風のパンが日本へ伝来したのは1543年、種子島に漂着したポルトガル人によって、鉄砲とともに伝えられたとされます。
1549年、フランシスコ・ザビエルらが日本へやってきてキリスト教の布教活動をはじめると、「キリストの肉」とされるパンも全国へ広まりました。
織田信長は異国の衣食住について非常に関心を寄せ、パンも喜んで食べたと伝えられています。
南蛮貿易で栄えた肥前(長崎県)の平戸や長崎では、パンづくりが特に盛んになったそうです。
しかし、食べていたのは主に日本にやってきていた貿易商人や宣教師たちで、米を主食とする日本人にはパン食はなかなか根付きませんでした。
鎖国政策が打ち出されると、唯一オランダ人の入港を許可された長崎の出島だけでパンづくりが細々と続けられました。
1840年に清とイギリスの間でアヘン戦争が始まり、徳川幕府は外国からの攻撃に備える国防対策に着手しました。
江戸湾の警備を命じられた伊豆韮山の代官・江川太郎左衛門は、戦争が起こった時に兵士に持たせる「兵糧」として、携帯に便利で保存性もよく、火をおこさなくてもそのまま食べられるパンに注目。
1842年、本格的な製パン所をつくり、出島からパン職人を招いてパンを焼かせました。
今の乾パンのようなものだったと言われていますが、日本人が日本人のためにつくった初めてのパンであり、江川太郎左衛門は「日本のパンの祖」と呼ばれています。
1858年の開国後、欧米諸国から来日する外国人たちのため、居留地のある横浜に外国人の経営による4軒のパン屋ができました。
これに続き、長崎や函館の居留地でもパンづくりが行われるようになりました。
当時パンは高級品だったため、大衆にまでは浸透していきませんでした。
1874年、「銀座木村家」創業者の木村安兵衛が、日本人の好みに合わせ、日本酒づくりに使う米こうじ(酒種)でつくったパン生地を開発しました。
1875年にはこの生地であんを包んで焼いた「あんパン」を発売し、爆発的な人気を呼びました。その後、庶民の間であんパンやジャムパン、クリームパンなどの菓子パンが定着していきました。
1890年に大凶作が起こり米が不足すると、代用食として食パンに砂糖醤油をつけて焼いた「つけ焼きパン」が大流行したそうです。
明治から大正にかけて、製パン機械や原材料が著しく進歩し、パン産業は飛躍的に発展しました。
イーストが登場したのもこの頃です。
ビール酵母、生イーストを経て、アメリカからドライイーストが輸入されるようになり、1913年にはアメリカでイーストのつくり方を学んだ田辺玄平が国産イーストを開発。
それを使ったパンづくりが行われるようになりました。
第二次世界大戦後、連合国軍最高司令官マッカーサーは「日本人を米と魚の食生活から解放する」と言明。
救援物資として日本に大量の小麦粉をもたらしました。
日本では「メリケン粉」と呼ばれ、委託加工所でパンが大量生産されるようになったそうです。
「中種法(なかだねほう)」というアメリカ式の製法でつくられた食パンは、やわらかくて日本人好みで、日本人も主食としてパンを食べるようになっていきました。
1946年には小学校でコッペパンと牛乳の学校給食が始まり、1954年に成立した「学校給食法」では、全国の小中学校の給食で主食がパンと定められました。
1964年の東京オリンピックをきっかけとして日本人の食生活の洋風化が進み、フランスパンやデニッシュペストリーなども登場しました。
1980年代に入ると冷凍パン生地技術が発達し、1990年代以降はコンビニエンスストアが急増。
いつでも手軽に、多種多様なパンを買い求められるようになりました。
その後、全国各地のご当地パンが注目されたり、食パンやコッペパンの専門店が誕生したりとパンブームが到来しました。
2011年には、総務省が行なっている家計調査でパンの購入額が初めてお米を上回りました。
製パン技術の進歩により、国産小麦を使った高品質なパンや全粒粉を使用したヘルシー志向の美味しいパンが次々と商品化されています。
農林水産省の調査によると、2021年の日本人の主食の構成比は、米食41.1%:パン食18.7%:麺類14.1%だそうです。
<参考サイト>
・「日本のパン文化の歴史〜パン史は日本史だ!〜」
https://angel-zaidan.org/contents/japanese_bread_culture_dai_1_kai/
③ パン生地の主な製法とは
パンの基本的な材料は、小麦粉と水と塩、ここまでは素麺と同じですが、そこにパン酵母が加わります。
パン酵母は「イースト」とも呼ばれる、約10ミクロンの卵型の微生物です。
パン酵母には、生地の状態を良くする、味と香りのもととなるアルコールやエステルなどの物質を生成する、など様々な働きがあります。
パンに主に使われる小麦粉は、タンパク質の多い強力粉です。
小麦粉を水とこね合わせると、タンパク質の一種である「グルテン」という網目構造の物質が形成されます。
こねることでグルテンができるのは、他の穀物にはない小麦粉ならではの性質です。
グルテンは弾力があり、引っ張ると伸びる性質を持っています。
塩はグルテンを強くして生地を引き締め、雑菌の繁殖を防ぐなどの役割を果たします。
グルテンが膜をつくり、パン酵母が発生させる二酸化炭素(炭酸ガス)を包みこむことで、パン生地が伸びてふくらみます。
ふくらんだ生地を焼くと、ふくらんだまま固まってパンができます。
パン生地は、使う酵母の種類や発酵させる時間、材料の配合量などにより仕上がりが大きく左右されます。
パン生地をつくる方法は細かく分けると約20通りあり、その多くは「ストレート法」「中種法」の2つの方法を応用したものだそうです。
【ストレート法】
必要な材料をまとめて1度にミキシングする製法。
作業工程が少ないため、短時間で簡単にパン生地をつくることができます。
発酵時間が他の製法より短いため、粉の風味を感じやすく、風味豊かでもちもちとした弾力のあるパン生地に仕上がりますが、ボリュームが出ない、大量生産できない、他の製法に比べて日持ちしない、などの短所があるそうです。
フランスパン、クロワッサン、デニッシュなどのパン生地づくりに向いています。
【中種法】
パン生地づくりに使用する小麦粉の一部または全部を先に発酵させて中種をつくり、残りの材料に混ぜ合わせて本仕込みする製法です。
「パン生地に使用する小麦粉の50%以上を中種に使用する」「つくった中種は最低2時間以上発酵させる」という2つの条件を満たす必要があります。
進展性が高く機械にかけても傷みにくい生地になります。
手間と時間がかかりますが、きめが細かくソフトでボリュームのあるパン生地に仕上がるため、ふんわりとした仕上げにしたい食パンなどに適しています。
<参考サイト>
・パンのミニ百科
https://www.yamazakipan.co.jp/entertainment/pan_ency/index.html
・パンの工場見学
https://www.panstory.jp/pankojo/pankojo.html
・パン生地をつくる上で知っておきたい!製パン法の種類
https://koki.company/blog/detail.html?1648456172
・パン作りの基礎
https://yoshitei.net/foundation/index.php?eid=00020
④ パンの美味しさは発酵により決まる
美味しいパンをつくるには、生地をうまく発酵させることが重要です。
パンづくりにおける発酵とは、生地の中にあるショ糖やでんぷんなどの糖分をパン酵母が分解して、炭酸ガスやアルコールを発生させることです。
粉に含まれるでんぷんが酵素によってより小さい麦芽糖に分解されます。
麦芽糖がパン酵母に含まれる酵素によってブドウ糖となり、さらに炭酸ガスとアルコールなどに分解されます。
発生した炭酸ガスは、パン生地の骨格であるグルテンの網目構造のなかに閉じ込められます。
パン生地がふくらみ、同時に発生するアルコールや香気成分、アミノ酸は、パン独特の香りや味わいのもととなります。
パン生地を発酵することにより弾力のあるパンになり、パンに風味や香りが生まれます。
発酵中はパン生地の熟成も進むため、小麦の風味や旨味、弾力を引き出すために大切な工程となっています。
パンの発酵は2段階に分かれています。
【一次発酵】
一次発酵の目的は、パン生地をふくらませることと、熟成により小麦の風味や旨味を引き出すことです。
ゆっくり時間をかけて生地を熟成させるほうが、美味しいパンになります。
一般的な一次発酵の方法は、まるめた生地をボウルに入れ、乾燥を防ぐためにラップをかけ、室温25~35℃、湿度70~75%の環境に置き、生地が2~2.5倍にふくらむまで待ちます。
生地の表面を指でそっと押してすぐに離し、指の跡が残ったら発酵が完了しています。
指を抜いた穴がすぐに元に戻ってしまう場合は発酵不足、穴の周りにシワができて生地表面に多くの気泡がある場合は過発酵とのことです。
一次発酵が不足していると二次発酵もうまくいかず、あまりふくらまないそうです。
ふわふわした感じのない、目の詰まったかたいパンになります。
逆に発酵させすぎると、パサついた食感でアルコール臭と酸味の強いパンになってしまうとのことです。
【二次発酵】
二次発酵は、成形したパン生地を最終的に発酵させることが目的です。
一次発酵の後、パンの成形をおこなうとパンの中の炭酸ガスが抜けていってしまいます。
パンを焼く前に再度発酵させることで、生地の中にまた炭酸ガスが生まれ、パンがふっくらと仕上がります。
一般的な二次発酵の方法は、成形後の生地をオーブンシートに並べ、室温30~40℃、湿度75~80%の環境に置き、生地が2倍程度にふくらむまで待ちます。
生地の表面を指で軽く押し、指の跡が少し残る程度であれば発酵が完了しています。
指の跡が完全に戻ってしまった場合は発酵不足、指の跡がしっかり残った場合は過発酵の状態です。
二次発酵が不足していると、うまくふくらまず粘土のような食感になるそうです。
逆に発酵させすぎると、表面がぼこぼこして焼き色があまりつかず、パサついた食感になってしまうとのことです。
<参考サイト>
・パンの発酵の仕組みと役割は?発酵方法の手順や膨らまない際の6つの原因
https://sala1.jp/column/bread-hakkou/
・パンの美味しさと食感の決め手になる発酵とは
https://koki.company/blog/detail.html?1666934987
・なぜ必要?パン作りに欠かせない「発酵」の役割と方法を解説
⑤ 天然酵母とイーストは何が違う?
酵母は自然界の様々な場所に生息する微生物で、自然界には数百種類もの酵母菌が存在するそうです。
その中で、パンづくりに利用されるのは「サッカロマイセス・セレビシエ」という酵母です。
最近「天然酵母」という言葉をよく見かけるようになりました。
天然酵母パンはヘルシーというイメージがありますが、実は「天然酵母」も「イースト(パン酵母)」も同じ「サッカロマイセス・セレビシエ」に分類されるそうです。
天然酵母を使ったパンとイーストを使ったパンは、具体的に何が違うのか調べてみました。
「イースト」は、パンづくりに適した1種類の酵母を人工的に培養した酵母のことで、天然の酵母の中でも発酵力が高いものを選んでおり、また添加物によって酵母の発酵力や安定性を高めています。
パンの発酵に特化した酵母なので安定した強い発酵力があり、短時間でパンを焼き上げることができます。
イーストを使ったパンはよくふくらみ、ふんわりとやわらかく食べやすい食感に仕上がります。
酸っぱいようなアルコールのような、独特の香りがあります。
焼き立てが最も美味しく、時間がたつと乾燥が進んで味が落ちてしまいます。
「天然酵母」には実は明確な定義がなく、イーストと区別するための表現だそうです。
一般的に、穀物や果実などについている複数の酵母が混ざったものです。
発酵に関係ない酵母も含まれ、発酵する力を強める添加物が入っていないので、発酵力が弱く不安定な場合が多いそうです。
天然酵母に使われる主な素材は、小麦粉・ライ麦・米などの穀物、リンゴ・バナナ・イチゴなどの果物、レーズン・プルーン・いちじくなどのドライフルーツ、桜・ローリエ・ホップなどの植物、そのほかヨーグルトや酒などもあるそうです。
種類ごとに香りや風味が異なり、奥深く複雑な味わいを楽しむことができます。
自然界にいる酵母を一から培養する自家製酵母の場合、まず素材を5~7日間発酵させます。
その後3~4日間、毎日小麦粉を足して酵母を育て、パンをふくらませられる発酵力をつける「種起こし」という工程を経ます。
こうしてできた「種」を使ってパンをつくるので、培養から焼き上がりまで1週間以上かかるとのことです。
最近では、酵母を培養する手間が省けるドライタイプの天然酵母も市販されています。
天然酵母パンは、噛みごたえのあるもっちりとした食感になり、酵母の香りや小麦そのものの甘みなど奥深い味わいと豊かな旨みがあるのが特徴で、時間がたっても美味しく食べられます。
パンの生地をふくらませる材料には「ベーキングパウダー」もありますが、これは炭酸水素ナトリウム(重曹)を主成分とする合成膨張剤で、イースト(酵母)とは全く違うものです。
水分と熱により化学反応を起こして炭酸ガスを発生させ、生地をふくらませます。
生地を寝かせる必要がなく、すぐに形成や焼成に取りかかれます。
サクサクとした軽い食感に仕上がるので、蒸しパンや焼き菓子づくりによく使われます。
<参考サイト>
・天然酵母とイーストの違いとは?パン酵母の種類や使い分けのコツ
https://sala1.jp/column/kobo-yeast-difference/
・天然酵母パンとは?特徴や普通のパンとの違いについても解説!
https://www.kurashiru.com/articles/f27e5eb3-3e0b-4700-8cb1-ef43fa8fa990
・ゼロから学ぶパン酵母
https://www.cotta.jp/special/bread/yeast.php
・天然酵母ってなに?
https://pand.jp/article/bread/3476/
・天然酵母とは?天然酵母パンの秘密
https://www.tontonshop.com/page/67
・失敗しない!自家製酵母の起こし方~酵母作り|お悩み解決
https://tomiz.com/column/troubleshooting-guide/homemade-yeast/
・失敗しない!自家製酵母の起こし方~種起こし&パン作り|お悩み解決
https://tomiz.com/column/troubleshooting-guide/homemade-yeast2/
・インスタントドライイーストとベーキングパウダーの違い
https://www.cotta.jp/special/article/?p=51192
⑥ 噛み応えの違いで分けられるハード系、ソフト系
パンは、その食感の違いにより「ハード系」「ソフト系」と分類されることがあります。
その中間のものを「セミハード系」と言うことも。それぞれの材料や製法にはどのような違いがあるのか、調べてみました。
【ハード系】
材料は基本的に小麦粉・酵母・塩・水のみ。
生地が伸びにくく、ふくらむ力があまり強くないため、スチームを当てて生地表面を湿らせながら焼きます。
焼き上がると、皮はかたくパリッとしており、中身はもっちり歯応えのある食感になります。
バケットなど、料理に合わせて食べる食事パンが多いそうです。
【セミハード系】
ハード系とソフト系の間のかたさの食感のパンで、生地をゆでてつくるベーグルや、イタリアのフォカッチャ、食パンなどがあります。
【ソフト系】
材料は小麦粉・酵母・塩・水に、砂糖や卵、油脂などが加わります。
生地がふくらみやすいので、焼く時にスチームを当てる必要はありません。
全体にふわふわしたやわらかい食感になります。
糖分が多いため焼き色がしっかり付きやすい特徴があります。
バターロールや、ブリオッシュなどの甘いパンがあります。
<参考サイト>
・ハード系パンとソフト系パンの作り方や材料の違いと種類
https://bread-everyday.com/hardbread-softbread-difference/
・ハードパンとソフトパン
https://pan-zukan.com/shurui/hardsoft/
⑦ 小麦とアレルゲンフリーを考える
食品の製造に携わる者として、避けて通れないのが食物アレルギーの問題です。
パンや素麺の主原料である小麦のアレルギーをお持ちの方も少なからずおられます。
「アレルゲンフリー」「アレルゲン不使用」といった言葉がありますが、それぞれ意味合いが異なり、また、日本と海外でもアレルゲンに関する表記の違いがあるということで、調べてみました。
【アレルゲン不使用】
アレルゲンを含む原料を使用せずに製造したものを指します。
アレルゲンを含まない、ということではありません。
例えば同じ製造室内でアレルゲンを使用する食品を製造していた場合、混入の恐れが完全には否定できないからだそうです。
【アレルゲンフリー】
日本国内では、アレルゲン含有量が「数μg/g(数百μg/100g)未満」のものを指します。
検査技術の進歩に伴いアレルゲン含有量の検出下限値は下がっていますが、全く含まないことの証明は不可能なので、ゼロとは言い切らないそうです。
【アレルゲン除去食品】
消費者庁より許可を受けた場合にのみ表示ができる食品で、特定の食品アレルギーの原因物質である特定のアレルゲンを不使用または除去(検出限界以下に低減した場合を含む)したものです。
医師、管理栄養士等と相談し、指導に沿って使用することが適当とされています。
最近よく目にする「グルテンフリー」について、小麦アレルゲンが含まれていないという意味ではありません。
欧米諸国ではセリアック病という自己免疫疾患が一般的な病気のひとつであり、グルテンフリー食品はその治療食として利用されています。
グルテン濃度が20ppm未満であれば「グルテンフリー」の表示が可能だそうです。
輸入食品を利用する際には留意しておきたいものです。
日本ではセリアック病が極めてまれな病気とのこともあり、「グルテンフリー」記載の基準が現時点では定められていません。
グルテン含有量1ppm以下の米粉を「ノングルテン」と表示するガイドラインが策定されているそうです。
セリアック病は食物アレルギーとは異なるメカニズムで起こる病気なので、グルテンフリー食品が小麦アレルギーの人向けとは言い切れないようです。
日本では、ごく微量のアレルゲンによっても食物アレルギーが引き起こされる可能性を考慮して、小麦などの特定原材料を含む食品にあっては、原材料としての使用の意図にかかわらず、原則、当該特定原材料を含む旨を表示する必要があります。
数ppm以上の小麦総タンパク量を含む状況であれば、容器包装に小麦のアレルギー表示をしなければなりません。
また混入の可能性が排除できない場合については、食物アレルギーを持つ人に対する注意喚起表記が推奨されています。
<参考サイト>
・食物アレルギー表示で食品事業者に求められていること
・アレルゲンフリーの表示について
https://www.label-bank.co.jp/blog/allergy/201512allergy
・アレルゲン除去食品ってなに?
・輸入食品の「グルテンフリー」表示について
https://www.label-bank.co.jp/blog/foodlabel/gluten_free201607
・グルテンフリーについて
https://www.label-bank.co.jp/blog/foodlabel/201905gluten-free
・グルテンフリーとグルテンフリー食品が必要な人
https://www.nippn.co.jp/BrandB/eiyou/column/25.html
⑧ グルテンを含まない「米粉パン」とは?
健康や美容の面から最近注目を集めている「米粉パン」。
その製法や食感など、小麦粉を使ったパンとの違いについて調べてみました。
米を細かく砕いた米粉は、粒子が細かくさらっとしており、水に溶けやすくだまになりにくい特徴があります。
グルテンを含まないため、小麦粉ほどふくらまず、水分を多く含みしっとりもちもちした食感になります。
小麦粉パンに比べ咀嚼する回数が多いので満腹感が得やすく腹持ちが良いのが特徴です。
米粉パンはグルテンアレルギーの人でも安心して食べることができますが、中には小麦のグルテンを添加してつくられているものもあるため、気になる場合はしっかり確認する必要があります。
<参考サイト>
・グルテンフリーで注目される米粉パン!小麦粉との違いを解説
https://koki.company/blog/detail.html?1691370032
・米粉パンの特徴とは?メリットやデメリットもご紹介
https://www.kobeseika.ac.jp/contents/boulanger/rice_flour_bread/
⑨ パンに似ている日本の郷土料理
小麦粉を使った郷土料理は日本各地にありますが、その中でも、生地を練って重曹やベーキングパウダーを加え発酵させて蒸したり焼いたりしてつくる、パンに似た食べ物について、いくつか調べてみました。
【がんづき】(宮城県・岩手県)
小麦粉、ベーキングパウダー、黒砂糖、水だけでつくるシンプルな蒸しパン。
その名は、雁(がん)の肉に似ていることに由来するとされる。
おやつや軽食、また農作業の合間に小腹を満たすために食べられてきた。
※写真はPhotoACより「仙台の「がんづき」」
【小麦まんじゅう】(埼玉県・栃木県)
かつて埼玉県では米の裏作として小麦栽培が盛んで、小麦粉を使ったうどんやお菓子が伝承されてきた。
小麦粉に砂糖、牛乳、重曹、ベーキングパウダー、卵を混ぜ合わせて生地をつくり、小豆あんを包んで蒸した小麦まんじゅうは、七夕やお盆、十五夜などの行事に仏様にお供えする菓子だった。
栃木県は日本有数の麦作地帯で、お盆の前に挽きたての小麦粉が出回るので、お盆の行事時には小麦まんじゅうが食されてきた。
小麦粉と砂糖、重曹でつくった生地であんを包み蒸し上げる。
【焼きまんじゅう】(群馬県)
群馬県では小麦の生産がさかんで、小麦を使った郷土料理も多い。
小麦粉やもち米にどぶろくを加えて発酵させ、蒸してまんじゅうにし、さらに竹串に刺して味噌だれをつけ焼き上げる。
お花見や夏祭りなどの際に食されている。
【炭酸まんじゅう】(群馬県)
小麦粉と重曹、ベーキングパウダー、砂糖を使って生地をつくり、あんを包んで蒸し上げる。
中に高菜やおからなどのおかずを入れて惣菜風にするケースも見られる。
季節行事のおもてなし料理や、農作業の間食、農作業がひと段落した時のご褒美として食べられてきた。
【ばらっぱまんじゅう】(千葉県)
小麦粉にふくらし粉と砂糖を混ぜて生地をつくり、濡れ布巾をかけて数分寝かせ、あんを包んで蒸し上げる。
夏祭りやお盆などのハレの日に食べられている。
【かんこ焼き】(神奈川県)
江戸時代から相模原市津久井地域に伝わる郷土料理。
稲作に適さない山間地で、古くから麦や豆が栽培され、小麦を中心とする粉食文化が根付いている。
小麦粉でつくった生地を少し発酵させ、小豆、かぼちゃ、フキなどの山菜、しめじなどのキノコ、クリ、切り干し大根、漬物など季節の食材を具として包み、軽く焼いたあとに蒸しあげる。昼食やおやつに親しまれている。
【石垣団子】(神奈川県)【石垣もち】(大分県)
火山灰に覆われやせた土地が多かった神奈川県相模原台地では、麦やさつまいもが多く栽培されてきた。
「石垣団子」は、皮をむいたさつまいもをサイコロ状に切り、小麦粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩を混ぜた生地に入れて丸め、蒸し上げる。
農作業の軽食として食べられてきた。
サイコロ状のさつまいもが石垣のように見えることからその名がついたとのこと。
大分県では小麦などの穀物栽培がさかんであったことから、小麦粉を使った郷土料理や菓子が浸透している。
「石垣もち」は、小麦粉とさつまいもだけを使ったシンプルなものや、地域によってはベーキングパウダーを加えてふんわりした食感を出すものもある。
【ほたようかん】(徳島県)
小麦粉と黒糖、重曹、ミョウバンでつくる生地の、蒸しパンのようなお菓子。
中に空洞ができていることを徳島の方言で「ほた」と呼び、ふわふわとしたスポンジのような見た目からその名がついたとのこと。
農作業の間食としてや、豊作を祝うものだったそう。
【みとりまんじゅう】(福岡県)
福岡県は小麦の生産が盛んで、小麦粉は身近な食材として用いられてきた。
小麦粉と砂糖、重曹を混ぜ合わせた生地であんを包み蒸し上げる。蒸した時に生地がふくらんで、きれいな丸い形になる。
今でもお盆につくられ、仏様にお供えされたり近所の親戚に配ったりする風習が残っている。
【ふくれ菓子】(鹿児島県)
鹿児島では江戸時代から黒糖が甘味料として強く根付き、黒糖を使った様々な郷土料理が生まれている。
小麦粉と重曹、溶き卵、粉黒糖、はちみつ、酢、水を混ぜ合わせ、蒸し上げる。
温かいとふんわりした食感で、冷めるともっちりとした食感になる。
かつては豊作を願う祭りの席や、農作業時のお茶うけとして食べられていたとのこと。
近年は郷土菓子として注目され、専門店などもできている。
※写真はPhotoACより「鹿児島県の郷土菓子 ふくれ菓子」
【げたんは】(鹿児島県)
かつて米の集荷地であった横川町(現・霧島市)に集まる人をもてなすための、お茶うけとしてつくられた。見た目が泥に汚れた下駄の歯に似ていたことからその名がついたという説があり、また「三角菓子」とも呼ばれていたとのこと。小麦粉と重曹、黒糖を混ぜ合わせた生地をオーブンで焼き、二等辺三角形になるように切って、黒糖の蜜にくぐらせて食べる。表面は黒糖の蜜のシャリッとした食感、中はしっかりとしたかたい生地で、時間とともに黒糖の蜜が染みこんでいく。
※写真はPhotoACより「げたんは 鹿児島名物 郷土菓子」
<参考サイト>
・農林水産省 うちの郷土料理
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html
⑩ 《美味しい素麺》手延べ乾平うどん 編
「手延べ乾平うどん」とは、小豆島の「手延べ素麺」の製法を生かしてつくられた「手延べうどん」です。
生地を“のばして”麺にするので包丁切りの手打ちうどんと違い、なめらかで角のない舌触りと、ツルツルとしたのど越しが特徴です。
さらに「手延べ乾平うどん」は麺を平たくすることで、スープや出汁に絡みやすくなり、美味しく召し上がっていただけます。
また、夏にお召し上がりいただくのにピッタリな、茹で時間が短めの「手延べうどん」です。
石井製麺所のイチオシの夏うどんと言えば、お家カレーを使ったカレーうどんです。
夏に食べるカレーうどん、美味しいですよね。
ぜひご自宅のカレーでお試しください。
もちろん、温冷どちらでも美味しく召し上がっていただけますので、お出汁を利かせためんつゆで、冷やしうどんとして召し上がっていただいても◎。
煮崩れしにくいので、温かいお出汁やスープと一緒に「豚キムチ鍋うどん」も暑い日にはおすすめです。
ドレッシングをサ〜ッとかけて、豚しゃぶサラダうどんもいかがでしょうか。
賞味期限は約1年となっていますので、備蓄食としてもぜひご活用ください。
《石井製麺所オンラインショップ》 https://141seimen.thebase.in/
《手延べ乾平うどん》 https://141seimen.thebase.in/categories/5913110
『お!いしい けんぶんろく』について
本ブログでは、色々な産地を調べたり、食べ方を探求したり、将来的には実際に産地に行って交流を深めたり…そんなことができれば良いなと考えています。まずは勉強からと言うことで、小豆島もそのひとつですが、日本の素麺や麺類について調べながら、様々な素麺の情報を発信できれば良いなと考えています。もし、間違いなどあれば、ご指摘ください。たくさんの方の“素麺のデータベース”になればと考えています。
色々な情報を紐解きながら…なので、間違いや勘違い、伝承だと色々な解釈があったりすると思いますので、優しい気持ちで見守っていただき、一緒に学べる場にできれば幸いです。