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2023年1月9日 【Vol.5】素麺の“味”を左右する主原料・小麦について

 

 

【お!いしい けんぶんろく】 Vol.5

素麺の“味を左右する主原料・小麦について

 

 

 

 

素麺は、小麦粉・塩・水などのシンプルな食材で作られます。

そのため、素材の良し悪し・向き不向きが素麺の出来を大きく左右します。

今回は、素麺の主原料である小麦について、価格決定の仕組みや産地ごとの特徴、手延べ素麺に適した小麦粉の特性などをご紹介します。

 

三代目:2021年に小麦粉の製粉会社「小田象製粉株式会社」様に訪問させていただいた際、小麦粉への情熱にとても感銘を受けたことを鮮明に覚えています。

私たちにとって、小麦粉はある意味“生命線”と言えます。

その品質や性質を熟知していないと本当に美味しい手延べ素麺を作ることはできません。

逆に製粉会社様からのアドバイスや小麦粉に対する知識を伝授いただけることは、とても大切なことだと感じました。

その良さを生かし切り、製粉会社様も驚くような美味しい手延べ素麺を作っていきたいと考えています。

(実は、「手延べ半生うどん」は小麦粉の研究開発担当の方も驚いてくださっています)

 

 

【目次】

① 小麦の価格は政府が半年ごとに決定している

② 国産・外国産、食品の産地による安全性の違い

③ 世界基準の農業認証「グローバルGAP」とは

④ 「小麦粉(国内製造)」と「国産小麦」の意味

⑤ 手延べ素麺の製法に適した小麦とは

⑥ 《産地紹介》徳島県・半田そうめん

⑦ 《美味しい素麺》手延べきくらげ麺 編

 


 

① 小麦の価格は政府が半年ごとに決定している

 

日本で消費されている小麦の約9割は外国産です。

製粉会社などが求める銘柄の小麦を、日本政府がまとめて輸入しています。

輸入小麦は政府から国内の製粉会社に売り渡され、小麦粉に加工されて食品メーカーに卸されます。

食品メーカーで素麺などの麺類やパン、菓子などの製品となり、消費者の皆さんに届くという流れになります。

 

政府が製粉会社に輸入小麦を売り渡す価格は、半年ごとに決められています。

その価格は、過去6ヶ月間に国が買い付けた価格の平均をもとに算出されるそうです。

またアメリカでもっとも取引量の多いシカゴ商品取引所での国際的な小麦相場の動向や、外国為替市場の動きにも影響を受けるため、円安が進むと輸入価格は高くなってしまいます。

 

2022年4月期の売渡価格は、前年のアメリカやカナダでの不作、世界情勢の影響などにより、その前の半年間と比べて17.3%引き上げられたそうです。

2022年10月期については、価格の急激な変動の影響を緩和するため、政府は売渡価格を据え置くことを決定しました。

小麦粉や小麦粉を使った製品の価格は、こうした政府の小麦売渡価格の改定を受けて変動しています。

ただし、製粉会社では不測の事態に備え2、3ヶ月分の小麦を備蓄することになっているそうで、小麦粉の価格変動は、政府の小麦売渡価格改定より少し後にズレてくるようです。

 

<参考サイト>

・輸入小麦の価格据え置きでどうなる?

https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/20220815/519/

・小麦・小麦粉の価格のしくみ

https://www.nisshin.com/entertainment/encyclopedia/flour/flour_04.html

・輸入小麦の政府売渡価格の緊急措置について

https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/220909.html

 

 


 

② 国産・外国産、食品の産地による安全性の違い

 

食品を購入する際、原材料の産地を確認することがあると思います。

国産だから安全・安心」「外国産は安全性が低い」というイメージをお持ちの方もおられるかもしれませんね。

実際のところ、外国産の食品は安全なのでしょうか?

 

結論から言うと、国内で流通している食品の安全性は、国産・外国産とも同じといえるようです。

食品衛生法により、残留農薬、食品添加物、微生物などについてどちらもまったく同じ基準が適用されているためです。

食品の輸入に関しては、農林水産省・厚生労働省・財務省の3つの省庁による3重のチェック体制が構築されています。

まずは農林水産省が所管する「植物防疫法」「家畜伝染病予防法」。野菜、果物、食肉などの貨物を対象とし、輸入時に持ち込まれる可能性のある病気や害虫から、国内の農作物や家畜などを守っています。次に、厚生労働省の「食品衛生法」で、あらゆる食品の衛生規制を行っています。最後に財務省の「関税法」にしたがって税関手続きが行われます。たとえば食肉を輸入する場合、「家畜伝染病予防法」「食品衛生法」で合格しなければ通関できないしくみになっているそうです。

また主要な空港や海港に設置されている検疫所では、統計学的に貨物を評価できる検体数で食品のサンプルを採取し、非常に高度で精密な検査を行い、安全性の管理が徹底されているそうです。

 

三代目:この点は、製造者としてとても気になる点でした。お客様にとっての安全・安心は原料段階からしっかりと把握できてこそ。今後も原料製造される製粉会社様としっかりと取り組んで参ります。

<参考サイト>

・輸入食品は安全なの?-消費者として知っておきたいこと-

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000150096.pdf

・気になる輸入食品のリスクや検査、そして輸入食品との付き合い方

https://www.ajinomoto.co.jp/products/anzen/know/i_foods_01.html

・国産の食品のほうが安全・安心?

https://oishi-kenko.com/articles/shokunoanzentokenkou08

 

 


 

③ 世界基準の農業認証「グローバルGAP」とは

 

世界的な潮流として、安全性は第三者が証明する時代になってきています。

日本の大手流通企業や有名ファストフードチェーンなどがグローバルな調達基準として採用している「グローバルGAP」をご存知でしょうか?

「GAP」とは、「GOOD(適正な)」「AGRICULTURAL(農業の)」「PRACTICES(実践)」のこと。農業における労働安全や環境保全、食品安全などについて、持続可能な取り組みを実践している生産者・生産グループを認証の対象としています。世界120ヵ国以上に普及しており、ヨーロッパでは大多数のスーパーマーケットが採用している、事実上の世界基準です。

「グローバルGAP」の認証を取得するためには、数多くの適合基準をクリアしなければなりません。

例えば野菜や果樹の認証における管理点は全218項目。内訳は、食品安全99項目、トレーサビリティ22項目、作業従事者の労働安全と健康28項目、環境(生物多様性を含む)69項目となっています。

2022年、農林水産省が「2030年までにほぼ全ての産地で国際水準GAPを実施」するという推進方策を策定しているそうです。

 

三代目:先日、お会いしたグローバルGAPインデューサーという方から、「今、世界では「日本産だから安全・安心で上質」ということは通用しません」というお話を伺いました。

グローバルGAP(日本ではJ-GAPなど)の認証制度は、簡単に言えば、世界中どこの農作物でも同じ基準で安全性が分かるようにするためのしくみで、生産者もそれを販売する流通側も一緒になって考えている取り組みだそうです。こういった認証制度を知り、原料素材を選ぶことは製造者である私たちの責任でもあり、安全・安心な“食べ物という命のバトン”を繋ぐことになると考えます。

これからもイメージやブランドに左右されるのでなく、お客様の身体を第一に考えた製造をおこなっていきたいと考えています。

 

<参考サイト>

・グローバル GAPを解説!JGAPとの違いや審査基準、必要な費用は?

https://agripick.com/2608

・民間団体による第三者認証を備えたGAP(GAP認証)

https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/gap_certification.html

・GAP普及推進機構/GLOBALG.A.P.協議会

https://www.ggap.jp/?p

・国際水準GAPの推進について

https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/g_summary/index.html

 

 


 

④ 「小麦粉(国内製造)」と「国産小麦」の意味

 

麺類やパンなど、小麦粉を使った加工食品のパッケージに、「小麦粉(国内製造)」や「国産小麦」などの記載を見かけることがあります。

これらの意味を正しくご存知でしょうか?

小麦粉(国内製造)」は、原材料表示欄に記載されています。

国内で製粉された小麦粉という意味であり、原材料の小麦の産地は明記されていません。2017年に始まった加工食品の原産地表示制度により、主原料の産地表示が義務付けられました。しかし小麦粉は原料である小麦の大半が輸入であり、製粉会社が複数の種類をブレンドして加工するため、原産地の明記が難しく、最終製造地を表す「国内製造」の表示が認められています。

国産小麦」は、国産の小麦を製粉した小麦粉を使用していることを意味します。

この記載は義務ではなく、商品特長の訴求として任意で表示するものです。100%使用の場合は100%と表示するか、割合を表示しなくてもよいことになっています。

100%に満たない場合は、その割合を併せて表示するよう法律で定められています。

 

<参考サイト>

・「小麦粉(国内製造)」と「国産小麦」の表示について

https://faq.pasconet.co.jp/faq/show/73?category_id=1&site_domain=default

・進化する国産小麦

https://www.benbu.jp/?mode=grp&gid=2555817

・小麦粉の国産と国内製造の違い、そばの原料は小麦粉? わかりにくい食品表示

https://flour.empacede.co.jp/eating/labeling/

 

 


 

⑤ 手延べ素麺の製法に適した小麦とは

 

小麦は、その産地や種類により性質が異なります。私たち製造者は、作りたい製品に最適な性質や風味を持つ小麦粉を追い求めています。

石井製麺所を例に、どのような製品にどんな小麦粉を使用しているかをご紹介します。

 

  • 手延べ素麺の場合

オーストラリア産のASWという、日本向け仕様の麺用小麦から製粉された小麦粉がメイン。さらに、グルテンの力が強いカナダ産、アメリカ産の強力粉を配合した、手延べ素麺用の専用粉を使っています。小麦粉独自のタンパク質であるグルテンは、こねたり練ったりすることで出来る繊維状の組織。生地を引き伸ばす工程を繰り返す手延べ製法では、グルテンの向きが揃うことにより、つるつるしたなめらかな食感が生まれて美味しくなるのです。

ちなみに手打ちうどんは、生地にいろいろな方向から力を加えることでグルテンの弾力性を引き出す製法で、しっかりした食感を生み出します。原料の味わいが仕上がりの風味に影響しやすい製法でもあります。

 

  • 手延べレモン素麺など、食品粉末を練りこんだ麺の場合

他の食品粉末を混ぜる場合、生地が伸ばしにくくなるので、伸ばしやすくするため国産小麦粉を使用したり、上記の手延べ素麺専用粉にさらに国産小麦粉をブレンドしています。

 

三代目:文字だけでは、説明が難しいのですが、手延べ麺をつくるときに大切なのは“無理なく伸ばせる”ということ。

ですが、小麦粉以外のものを配合して練ると、麺生地が伸びにくくなります。また、国産小麦の特製は、伸びやすい(伸ばしやすい)ことです。そのため、“伸びにくくなった麺”を“伸ばしやすくする”ために、国産小麦を配合して伸ばしやすさを調整しています。この“伸ばしやすさ”は、熟成時間にも影響を及ぼし、伸ばし作業にも影響します。

ゆっくりすぎず、早すぎないようにするためです。

「早く伸びるならいいんじゃないの?」と思われるかも知れませんが、早く伸び過ぎてしまうと作業が追いつかず、製麺がコントロールできなくなります。結果、歩留まりが悪くなってしまい、麺の品質も落ちてしまいます。

石井製麺所では、新しい手延べ麺をつくる際に、国内製造小麦、配合する食品原料(例えば長命草の粉など)、そして国産小麦の配合量を品種ごとに変え、製造時の季節や気候、湿度、温度などを考慮して品質が一定に仕上がるように調整しています。

 

  • 手延べうどん(半生タイプ・乾麺タイプ)の場合

「瑞象(ずいしょう)」という、小田象製粉株式会社様のオリジナルブランド。うどんには味や食感の改良のため加工デンプンを使用するのが一般的ですが、こちらは小麦粉100%、加工デンプン不使用のうどん用小麦粉です。性質の異なる複数種類の小麦をブレンドして生まれるモチモチ食感と、小麦粉100%による豊かな香りを実現しています。

 

三代目:石井製麺所では、召し上がっていただく方の身体に負担無く、安全・安心な小麦粉であることを前提として、製品づくりで使い分けています。「外国産」か「国産」の基準ではなく、手延べ製法に合うか合わないか、美味しい“手延べ麺”にできるかできないかを考えながら、製品や製法にあわせてブレンドしたり使い分けたりしています。また、むしろ美味しい手延べ素麺のためには、小麦粉の特性的に外国産(特にオーストラリア産)のものが、美味しくできると考えています。

 

 

<参考サイト>

・うどんの話

https://flour-net.com/column/flour_udon/column_udon/post_109.html

・新時代のうどん専用粉”瑞象”(ずいしょう)新発売

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000064557.html

 

 


 

⑥ 《産地紹介》徳島県・半田そうめん

 

徳島県の西部に位置するつるぎ町半田地区で作られる素麺で、その歴史は古く、約200年の伝統があるそうです。

その起源は諸説ありますが、江戸時代の中頃、物資の運搬を担う船の船頭たちによって、奈良の磯城郡三輪町、淡路、鳴門などを経由して半田に素麺の製法が伝えられたとされています。

当初は船頭たちの家族が自給自足で作るほか、副業にする目的で生産されていたようです。

 

四国山脈から吹き降ろす冷たい風や吉野川の清水などの気候風土が素麺作りに適しているといわれています。

現在、半田地区には数多くの製麺所があるそうですが場所によっては300mの標高差があり、その標高の違いや小麦の種類、塩や水の配合、熟成や乾燥の時間などにより、製麺所ごとに独自の味わいがあるそうです。そして、その味の違いを食べ比べるのも半田そうめんの味わい方のひとつだそうです。

半田そうめんの特徴は、半田そうめん音頭で「コシの強さにノドが鳴る」と歌われるくらい、一般的な素麺よりやや太めでコシが強く人気があるそうです。

 

日本農林規格(JAS)では「ひやむぎ」に分類されますが、江戸時代から続く伝統と麺文化の地域性が認められ、特別に「そうめん」の表記が認められています。

農林水産省の統計(平成21年)によると、手延べ素麺の都道府県別生産量において、徳島県は兵庫・長崎・奈良に次ぎ、香川と同じく6%のシェアを占めています。

 

写真は霊峰剣山からの眺めで、次郎笈を望む写真だそうです。

この霊峰から吉野川に下る山間に半田そうめんの製麺所が点在しているそうですよ。

 

<参考サイト>

・半田手延べそうめん協同組合

https://handasoumen-kumiai.jp/feature.html

・あるねっと徳島

https://arunet-awa.com/?mode=f6

・農林水産省 うちの郷土料理「半田そうめん 徳島県」

https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/44_4_tokushima.html

・乾めん類の都道府県別生産量

https://www.shimabara-soumen.com/article/14800426.html

 

 


 

⑦ 《美味しい素麺》手延べきくらげ麺 編

 

小豆島には、島を代表する食品産業として手延べ素麺の他に、最近人気の高いオリーブ、木桶醤油で有名な醤油、そしてその醤油を活用した佃煮会社が多くあります。

その佃煮会社でも有名な会社「宝食品株式会社」様は、価値ある佃煮づくりのためにと、香川県産のきくらげ栽培を始められ、それらを使った商品を作られています。

その、希少な香川県産きくらげを乾燥させて粉末にし、配合したのが「手延べきくらげ麺」です。

 

中華料理に欠かせない食材のきくらげ。和食でも食感のアクセントとして利用されるきくらげはキノコの一種ですが、実はビタミンDや鉄分、カルシウムなど栄養満点の食べ物なんです。

薬膳の考えでもきくらげは「黒」の食べ物として、とても珍重されていて、寒い時期に弱ると言われる部位に良いとされています。

 

ここまでにご紹介した、「手延べひじき麺」「手延べ黒ごま麺」も薬膳の考えに基づく「黒」の食物を配合した、寒い時期ならではの手延べ麺です。

毎日食べて、健康に!

そんなことを実現できるような手延べ麺を作っていきたいと考えています。

《楽々膳・黒》シリーズをどうぞよろしくお願いいたします。

 

《石井製麺所オンラインショップ》 https://141seimen.thebase.in/

 

《楽々膳・黒シリーズ》 https://141seimen.thebase.in/categories/4801499

 

 

三代目:次回のブログは1/20ごろ、アップしたいと思います。

 

『お!いしい けんぶんろく』について

本ブログでは、色々な産地を調べたり、食べ方を探求したり、将来的には実際に産地に行って交流を深めたり…そんなことができれば良いなと考えています。まずは勉強からと言うことで、小豆島もそのひとつですが、日本の素麺や麺類について調べながら、様々な素麺の情報を発信できれば良いなと考えています。もし、間違いなどあれば、ご指摘ください。たくさんの方の“素麺のデータベース”になればと考えています。

色々な情報を紐解きながら…なので、間違いや勘違い、伝承だと色々な解釈があったりすると思いますので、優しい気持ちで見守っていただき、一緒に学べる場にできれば幸いです。